糖尿病関連情報

「奈良宣言2023」って何?

( 院長 片岡伸久朗 ) 

 今年6月に奈良で肝臓病学会があった際に、肝臓病学会は「奈良宣言2023」というのを表明しました。

思い返せば熊本で糖尿病学会があった2013年、ちょうど10年前ですが、その時に糖尿病学会から「熊本宣言2013」というのが出されました。
この二つの宣言を下に並べてみましょう。


 

熊本宣言では「HbA1cを7%未満にコントロールして合併症を抑制しましょう」と、くまもんがHbA1cの重要性をアピールし、その甲斐あってかなりHbA1cの意義が患者さんに浸透したように思います。

一方で奈良宣言では何を謳っているのでしょうか?
ALT(以前はGPTと呼んでいました)という検査値は皆さんになじみ深いものでしょう。
これは肝臓の細胞が壊れると検査値が上がる、すなわちALTの上昇は肝障害を意味します。
この検査値が30以上ならかかりつけ医を受診しましょう、とせんとくんが呼びかけているわけです。
CLDというのは慢性肝臓病のこと。肝臓病学会はこの略語も浸透させたいと考えているようです。

では、なぜこの宣言が出されたのか、その背景を探ってみましょう。

実は検診で最も多くの方が引っかかるのが肝機能検査です。
脂肪肝の方は、なんと日本全国で2500万人もおられる。
検査結果の説明時に、「ああ、肝臓の数値がちょっと高いですね。脂肪肝でしょうから、そんなに心配いりませんが、お酒の飲みすぎや肥満に気を付けましょう。」っていうくらいで済まされることが多い。
しかし、それにちょっと待った!!と物言いをつけたのが今回の奈良宣言2023です。

ALT30以上の方はまずかかりつけ医を受診して、肝障害の原因を精査します。
最近ではB型やC型肝炎ウイルスによるものは随分減ってきています。
その分増加してきているのが、アルコール過飲によるもの、そして肥満・メタボ・糖尿病に伴う脂肪肝です。
特に糖尿病の方でこの数値が高いと要注意です。
脂肪肝の中でもたちの悪いNASH(ナッシュ)になっているかもしれません。
NASHとは脂肪肝から肝硬変、肝臓癌になっていくような重大な肝障害で、血中のインスリン濃度が高いほどNASHの可能性が高い。
糖尿病の方の肝臓癌発症リスクは糖尿病のない方の2倍と言われていますが、特に血小板数が減少してくると要注意です。
また、血小板数よりあてになる指標が「Fib4‐index」で、これも当院では検査結果に組み込んでいます。
糖尿病の方でこの数値が基準値を上回るとより発癌率が高くなり、一方で「NASH」がある場合、心臓・脳の血管障害も起こしやすくなり、認知症になるリスクも38%上昇すると言われます。
FIB-4indexが高いと肝臓専門医に紹介することとなっていますが、当院ではさらにこの数値の高い人でオートタキシンという検査を行って、肝臓の繊維化が進んでいないかチェックしたうえで肝臓専門医に紹介しています。


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