糖尿病関連情報

 「SGLT2阻害剤」その有用性の証拠はそろった

SGLT2阻害剤についてこの「かたくり」に書いたのはもう6年も前のこと、この薬が市販される少し前でした(2013.12.15)。
その後2014.4月に最初のSGLT2阻害剤である「スーグラ」が発売されました。
この系統の薬剤を患者さんに使用し始めて、もう5年以上が経過していることになります。まさに“光陰矢の如し”ですね。

余分な糖を尿中に排泄して血糖値を低下させる、というメカニズムは全く新しいコンセプトに基づくものであり、当初は我々糖尿病専門医も恐る恐る使用を開始しました。
現在では全世界的に使用が増え続けている糖尿病薬ですが、ではこの5年間でSGLT2阻害剤はどういった評価を受けるようになったかを今回お書きしてみましょう。

その薬剤が本当に有用かどうかを検討するのは、実は大変な作業です。
たとえば、血糖値をよく下げる、という薬であったとしてもほかに変な副作用があったり、血糖値が下がっても生命予後は改善しない、とか心臓病が増える、とかいうことがあったりしたら、その薬は真に有用なものとはいえない。
そこで真に有用かどうかを調査するためには大規模臨床試験による裏付けがなされるのが一番です。
最も信頼度の高い方法は、同じ疾患の同じような背景因子を有する2つのグループに、片方のグループには薬剤を、もう片方のグループには偽薬をヨーイ・ドンで内服していただいて、数年経た時点で両群の死亡率や想定される疾患の発症率を比較するというものです。
そうしてその結果にしっかりと差がついていたなら、その薬の有用性が証明された、証拠(エビデンス)が出た、ということになります。

初めてこの薬のエビデンスが出たのが「EMPA-REG OUTCOME試験;ジャディアンスという薬によるもの」でした。
それは心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者さん約7000名を対象として行われ、たった2-3年の間に、特に心血管疾患による死亡が約4割も減少した、という驚くべきものでした。
とりわけ心不全による入院が35%低下し、この薬の利尿作用がどうやら他の利尿剤と異なって、塩分も少し尿中に余分に捨てる働きがあるにもかかわらず、塩分の再吸収を増やすシステムにスイッチをいれないからのようです。
次に「CANVAS-PROGRAM試験(カナグルという薬)」。
こちらの試験でも心血管疾患リスクの高い糖尿病患者さんが対象で似たようなエビデンスが示されました。さらに「DECLARE-TIMI試験(フォシーガという薬)」。
この試験でも対象は動脈硬化性心血管疾患リスクの高い患者さんで、やはり心血管死または心不全による入院を減少させました。
これらのエビデンスにより「心血管イベントを抑制する」という効果はSGLT2阻害剤が共通して持っている働きである可能性が強く示唆されました。
糖尿病患者さんが長生きできる時代がやってきて、加齢に伴う心不全が重要なテーマになってきている現在、かなり優先的に使用されるべき薬剤として、特に循環器の先生方のSGLT2阻害剤に対する注目度・期待度が高まっています。

また、今年「CREDENCE試験(これもカナグルという薬)」という論文が発表されました。
これはSGLT2阻害剤の腎臓への保護作用についてエビデンスを出したものです。
この試験では、すでに腎機能がある程度低下した患者さんも含む対象で、SGLT2阻害剤を内服した群では腎不全や腎臓死などのイベントを、偽薬群に比べて30%減少させています。
ある程度腎臓を守る働きは予想されていましたが、それがはっきりと示されたのは今回が初めてです。
おそらく、この腎臓保護作用もSGLT2阻害剤が共通して有するものだろうと考えられます。
SGLT2阻害剤のデメリットも挙げておきましょう。
当初危惧された膀胱炎、尿路感染症は必ずしも増加しなかったものの、女性では性器感染症が増加しやすい、ということです。
それから、筋肉量の少ないやせた方には、たとえ心不全傾向でも使用しにくい、といったことでしょうか。

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