糖尿病関連情報

はいはい、次なるターゲットは?

糖尿病学会ではアンケートによる糖尿病患者さんの死因調査を10年ごとに行っています。先ごろ2001年〜2010年までの調査結果が糖尿病学会雑誌 9月号に掲載されました。糖尿病患者さんの死因の第一位は一般の方と同様、悪性腫瘍でした。38.3%の方が、いわゆる「癌」で亡くなっており、中でも肺癌が最多となっていました。今まで最多だった肝臓癌は、C型肝炎ウイルスに対する治療が奏功してきたのでしょう、減少に転じていました。死因の第二位は感染症であり、その多くを肺炎が占めていました。そうです、1位・2位の死因のうち、多いものは「肺癌」「肺炎」であり、はいはい、見えてきましたね。これらが次なるターゲットであり、こういった呼吸器疾患を予防する戦略が求められる、ということになります。

呼吸器疾患予防の第一の手段とは、まず「タバコを吸わないこと」ではないでしょうか?
 欧米のデータではありますが、本年のアメリカ放射線学会で、糖尿病があって喫煙する方と、非糖尿病の喫煙者の死亡率を比較したデータが発表されました。約7年の追跡期間で、糖尿病をもつ喫煙者の死亡率が12.6%であったのに対し、非糖尿病の喫煙者では6.8%と、糖尿病患者では非糖尿病者に比べて喫煙者の早期死亡リスクが約2倍でした。リスクが2倍といわれてもピンと来ないかもしれません。確率が2倍ということは、野球に例えるなら、2割バッターと4割バッターの差。そう考えると、ものすごい違いであることがお分りになるでしょう。やはり糖尿病の方こそ、「タバコを吸わないこと」が重要なのは明らかです。タバコは、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病、感染症、下肢切断、失明といったすべての合併症を生じやすくしてしまいます。すぐにでも止めて頂きたい。でも、わかっちゃいるけど止められない。いったん吸い始めたものを止めるのには大変な努力が必要なのです。最近では禁煙をしようと思い立った方に対して禁煙補助のための内服薬や、ニコチンパッチ、ニコチンガムなどを用いたサポートも行うことができます。しかし軽い気持ちではなかなかに禁煙を達成するのは難しい。まず昨日までより1本少なくする。そこから始めましょう。そうして一日15本以下にまでできたら、そこで禁煙補助薬を考えましょう。

肺癌死予防の他の手段の一つが検診でしょう。肺癌検診でなかなか早期のものを見つけるのが難しい場合もありますが、やはり胸部レントゲン写真を受けておくのが望ましい。喫煙される方はとくに。各自治体で行っている癌検診がチャンスですので、これを受けておられたらよいでしょう。そして肺炎球菌やインフルエンザのワクチン、さらには冬季の工夫―マスク・うがい・手洗いなども呼吸器感染の予防に有効です。口腔ケアといって、平生から口の中の清潔を保つことも誤嚥性肺炎を予防する効果があります。

糖尿病患者さんと日本人一般の平均寿命の差は、これまでの報告では全く縮まってこなかった。でも今回の調査ではやっと2年くらい追いつくことができています。医療の進歩により確かに糖尿病患者さんの予後は改善してきたものの、まだまだ男性で8.2才、女性で11.2才の平均死亡年齢の差が厳然として存在します。なんとしてでもこの差を縮めていって、糖尿病患者さんと日本人一般との生命予後にほとんど差は無い、という風に持っていきたいものです。タバコを吸う糖尿病患者さんが減少すれば、そういう理想に一歩近づくことになります。


(付記)今回の死因調査の論文をみて驚いたのは、血管障害に伴う死亡が顕著に減っていて、第3位となっていたこと、中でも虚血性心疾患によるもの(4.8%)が、死亡割合だけでいうと、日本人一般のもの(6.5%)を下回るほどになっていたこと。これだけ虚血性心疾患による死亡割合が減少した原因として、血圧や脂質の厳格な管理が浸透してきたことと、循環器の先生方のご尽力による心臓血管の血行再建の進歩などが挙げられます。


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