糖尿病関連情報

膵島移植について (2005.12.15)

今回は年頭ということもあって、夢の治療について書いてみましょう。「夢の治療」というと皆さんはどういったものを思われますか。「いくら食べても血糖値があがらない」とか「運動しなくても運動と同様の効果がある」とか、そういったものが挙げられるでしょうか。膵島移植とはインスリン注射が必要な1型糖尿病の人が「インスリンを打たなくてもよくなる」治療ですから、まさにそういった夢の治療のひとつといえるでしょう。その膵島移植の現状についてわかる範囲でお書きしてみましょう。

膵臓は胃の裏側に存在し二つの大きな機能を有しています。ひとつは外分泌機能と呼ばれる「消化液を分泌する」働きです。もうひとつは内分泌機能と呼ばれる「インスリンを分泌し血糖値を下げる」働きです。従来行われていた膵移植は膵臓そのものを全部移植してしまうやり方ですから、本当はインスリンを出してくれる細胞だけあればいいものを消化機能を有する細胞まで移植してしまうため、その消化液をどう処理するかということが課題となります。また膵臓をそのまま全部体内に埋め込む手術ですから非常に大掛かりな手術になります。そのため一般的には膵移植は現在では単独には行われません。糖尿病の方にこうした大掛かりな手術が行われるのは、糖尿病腎症で腎不全を合併した方に腎移植と合わせて膵腎同時移植という形となります。

一方で膵島移植はどうでしょうか。膵島、これはいわゆる「ランゲルハンス島」のみを分離し、移植する手技です。膵臓をいったん取り出して膵外分泌細胞を外して残った膵島細胞のみを移植に用いるのです。膵島細胞をバッグの中に溶液のような形で採取し、肝臓をエコーで見て門脈を穿刺してカテーテルを挿入しそこから輸液の要領で点滴を行います。移植といっても開腹手術は必要ありませんから1回の移植に必要な所要時間は15分程度で、肉体的な負担は軽度です。

ただ、膵島移植は簡便ではありますが、問題はドナーが少ないということです。元となる膵臓はどうやって手に入れるかというと、生体膵島移植と心停止ドナー膵島移植によります。前者は身内の方の健康な膵臓を半分提供していただくもので、後者は死亡時に臓器提供の意思のあったドナーから膵臓を頂きます。亡くなられた方から臓器をいただくわけですから登録をして待っていてもすぐには移植を受けられるというわけではありません。そのため、日本国内で膵島移植を今までに受けられた方は10数名に過ぎません。まだまだ脳死臓器移植の数は限られています。まずは、ドナー登録がどんどん行われるために、脳死状態で臓器が提供されることに日本人の抵抗感がなくなる必要があるでしょう。

この秋の糖尿病学会中四国地方会で京都大学移植外科の松本慎一先生にお話を伺う機会がありました。松本先生は本邦の膵島移植の第一人者です。講演をうかがった後、個人的に質問もしました。最も訊きたかったのは、この10年で膵臓のランゲルハンス島B細胞を無限に増殖させる技術が臨床応用され、誰でも膵島移植を受けることができるようになるかどうか、ということでした。正直、10年ではそこまでは難しいかもしれない、というお答えでした。しかし、10年の間にはブタの膵島を移植する技術は実用化するかもしれない、とおっしゃいました。また、他方で岡山大学では膵島細胞を培養する技術と同時に、ブタの膵島を組み込んだ人工膵島も手がけています。多くの研究施設でこういった方法が平行して開発途上にあり、実用化するのに存外時間はかからないような気がしています。

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