糖尿病関連情報

PADの早期発見

広島県糖尿病療養指導士の受験者を対象に毎年講義を行っています。
その講義用のテキストが年々厚くなっているのですが、僕の受け持っている中では、特に足病変のページが増えています。以前はあまり言及されていなかった、具体的な靴や靴下などのフットウエアに関する記述や、下肢を切断された方のリハビリについての記述など、糖尿病足病変に関するものが多くなっているのです。ということはそれだけ、日本全体でこの病態が問題となってきている、ということでしょうか。

糖尿病の方の足の病気といえば、壊疽を思い浮かべる方も多いかもしれません。昔、村田英雄という演歌界の重鎮がおられました。「王将」「人生劇場」といったヒット曲で一世を風靡した歌手です。村田英雄さんは、糖尿病壊疽により両下肢の切断をされて、それでも車いす姿でステージに上がっておられました。糖尿病で足の血管が詰まって壊疽を来して下肢切断に至ったということで、そのもととなったのが、PAD(末梢動脈性疾患)です。(以前は「閉塞性動脈硬化症」といっていました。)糖尿病のない方でも、喫煙者や動脈硬化の著しい方で起こりえますが、下肢切断にまで至るのは、圧倒的に糖尿病の方に多い。その元となるのが、このPADというわけです。

PADの病期は、T度が冷感・しびれ、U度が間欠性跛行(しばらく歩くと痛みが出る、休むとまた歩ける、という症状)、V度が安静時疼痛、W度が潰瘍・壊死という風に分類されます。では、この順番に症状が出てくるかというと、さにあらず。T度・U度をすっ飛ばしてW度の潰瘍ができたりするから厄介です。
しかし、この病態を早期に発見する手段があります。それが、手足の血圧をいっぺんに測って比較する、ABI(下腿上腕血圧比)という検査です。皆さんも一度は行われたことがおありと思います。
通常なら、足の血圧のほうが、手よりも高い。それが逆になると、この病気の可能性がある。特に足の血圧÷手の血圧が0.9以下だと、その可能性が非常に高い。
この方法でPADの早期発見をし、軽度のものなら禁煙や歩行運動などで進行予防に努める。進んだ状態になっていれば、血管を広げたり、バイパス手術を行ったりすることで、足病変の予防につなげることができます。
簡便で、非侵襲的で、同時に血管年齢(血管の硬さ)もある程度分かる、非常にいい検査です。糖尿病の患者さんには毎年でも行っておきたいものですが、キャパシティーの問題もあり、現在のところ、2−3年に一回程度施行させていただいている、というのが実情です。糖尿病足病変のリスクの高い方のリストを下記にお示ししますが、3以外の項目に当てはまる方は、この検査を、より頻回に行うほうが良いのでしょう。
もちろん、足病変のリスクの高い方のみでなく、糖尿病患者さんはみな、各々の足に注意を払っておくべきなのは、いうまでもありませんが。 。


(糖尿病療養指導ガイドブック2015,p176)

ページトップへ