糖尿病関連情報

動脈硬化を予防する

 動脈硬化によって起こる疾患の代表選手は、以下の三つです。
1、 脳血管疾患―以前は脳梗塞・脳出血・くも膜下出血を総称して脳卒中と呼んでいました。糖尿病の方の場合、血管が詰まる脳梗塞が主体です。
2、 心血管疾患―心筋梗塞・狭心症といった病態であり、心臓を栄養している血管を冠動脈と呼ぶため、冠動脈疾患ともいいます。
3、 末梢動脈疾患―昔はタバコによって起こるバージャー病もこのカテゴリーに含まれていましたが、バージャー病は激減したため、今では動脈硬化で起こる閉塞性動脈硬化症のことを指す、といってよいでしょう。

糖尿病の方の、これらの疾患を「大血管症」と呼んでいます。
糖尿病大血管症は発症すると生活の質を低下させますし、生命予後も左右しますので非常に重要です。
今回のお話しはこれらの大血管症が減少傾向にある、というもの、そしてその要因は何でしょう、というものです。
糖尿病データマネージメント研究会(JDDM)が2011年に行った報告によると、1000人の糖尿病患者さんが一年のうちで何人発症するか、という解析を行った結果では脳血管疾患3.1人、心血管疾患4.4人でした。
それ以前の研究では(1996年から前向きに調査された研究−日本糖尿病合併症研究−)それぞれ7.6人、9.6人でしたから、半分以下に減ってきています。
アメリカでも1997〜1998年の糖尿病の方の心血管死と2003〜2004年のものを比較したデータが発表されていますが、やはり一年で1000人あたり9.5人から5.6人へと大幅に減っています。
どうやら洋の東西を問わず、大血管症は減少傾向のようです。

では、動脈硬化に少し歯止めがかかってきた要因は何でしょうか。
頚動脈エコーや大動脈脈波速度といった検査による早期発見ができるようになったためでしょうか?もちろん、それらがある程度寄与している可能性は否定できませんが、最も大きな要因は「血圧や脂質の厳格な管理」がきちんと行えるようになってきたことだと考えます。
動脈硬化の主犯は高血糖ではありません。
コレステロールを運搬する脂肪の粒子のうち、劣化したものが血管の内側に取り込まれるのが動脈硬化のはじまりですので、脂質異常が主犯格です。
糖尿病やメタボでは脂肪の粒子が劣化しやすくなる。
また、血圧が高くても、血管内皮が傷つきやすくなり、やはり脂肪の粒子が内皮下に侵入しやすくなる。
振り込め詐欺ではありませんが、これらの要因がグルになって動脈硬化を引き起こしていたのが、それぞれを随分管理できるようになってきたことで、動脈硬化にブレーキがかかってきたのだと思われます。
「ステノ2」という、デンマークで行われた研究が、重複する危険因子をすべてきちんと管理することの重要性を明確に教えてくれています。
この研究では、危険因子の管理を厳しく行った群では、管理の甘かった群に比べて心血管死亡を半分以下に抑えることができました。
血糖管理が難しくても、血圧や脂質を、それぞれ厳重に管理することがいかに重要であるか、ということがその研究以降のコンセンサスとなっています。
もちろん、他の危険因子として、肥満・過食・運動不足・喫煙といった、生活習慣に起因するものがあります。
薬物療法による危険因子の管理も重要ですが、生活習慣の是正が危険因子管理の基本であることはいうまでもありません。
厳重な血圧管理―可能なら130/80mmHg未満、それに厳格な脂質管理―悪玉といわれる、LDL-コレステロールは120mg/dl未満(既に心血管疾患をお持ちの方は100mg/dl未満)をターゲットとして管理していきましょう。

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