糖尿病関連情報

新しい糖尿病治療薬―GLP-1について― (2006.3.15)

前回は新年ということで夢の治療と考えられる膵島移植についてお書きしました。膵島移植はインスリン治療がどうしても必要な多くの1型糖尿病の方に遠からず福音となる可能性があります。今回は2型糖尿病の方への新しい治療をご紹介しましょう

ご紹介するのはGLP-1という物質です。GLPとはグルカゴン様ペプチド(glucagon-like peptide)のことで、もともとは人の消化管粘膜から分泌されるホルモン活性物質です。『食物繊維の多い食事を摂ると血中インスリン濃度が高まる』ということが一時期アメリカの糖尿病協会雑誌に掲載されましたが、この現象を突き詰めてみると食物繊維が"炭水化物の消化吸収を遅くするばかりでなく、インスリンの分泌そのものを促すことがわかってきたのです。そこで,消化管のなかで栄養素が運ばれてきたときにインスリン分泌を促す物質は何かを探索する研究が盛んになり, GLP- 1 にいきあたったのです。

グルカゴンという物質は皆さんにもお馴染みかもしれませんが低血糖の際に注射し血糖を上昇させる物質です。
「グルカゴン様物質」だったら、血糖値を上昇させてしまうのではないか、とお考えかもしれません。実はグルカゴンには多面的な働きがあって、肝臓のグリコーゲンを血中に放出させる働き(血糖値を上昇させる)と同時に、インスリン分泌を刺激する働きがあるのです。(実際、グルカゴン負荷試験という検査では、その人のインスリン分泌能を検査することができます。)ですから、この、GLP-1は膵臓のβ細胞に働いてインスリンを出させ、血糖値を抑える力があるのです。
でも、やはりインスリンと同様、ペプチド(蛋白質)ですから内服ではすぐに消化されてしまって効果がありません。インスリンと同様、注射で投与しないと効果がありません。ではこのGLP-1がインスリンを超えるようなメリットはなにかというと、この物質には、「低血糖の時にはインスリ分泌を刺激しない」という重要な特徴がある点です。つまり、GLP-1注射では低血糖の危険性が少なく血糖値を下げる効果が期待できる、ということになります。
また、食欲抑制作用もありますから体重増加も起こしにくい。さらに大事な作用と考えられるのが、今までの薬と異なり“インスリンを出させる”のでなく、“インスリンを作らせる”ことです。このことは、膵臓のβ細胞が疲弊するのを防ぐことにつながります。

これらの理由で、GLP-1は理想に近い血糖降下薬と期待されているのです。この薬はすでにアメリカでは承認されていますが、さらに、飲み薬で同様の効果を期待できるような薬も開発途上にあります

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