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糖尿病と認知症

糖尿病の合併症ともいえる疾患の中で、これまでこの「かたくり」で言及してこなかったものがあります。それは認知症。
 現在わが国の高齢者の方で中等度以上の認知症の方が2〜3%おられるようですが、高齢者糖尿病の方では、その頻度が1.5〜2倍になるそうです。
ですから、認知症ももうひとつの「合併症」として認識しておく必要がありそうです。
 動脈硬化による血管障害も認知症の一因ですが、アルツハイマー病によるものも糖尿病で増加することが明らかにされています。そのほかに高齢者の方では、くり返す低血糖が認知機能にダメージを与えてしまう、ということもあるかもしれません。
糖尿病は血管合併症を引き起こしやすい病気ですから、脳血管性認知症の原因となりうることは容易に想像がつきます。しかし、糖尿病が一方でなぜ、アルツハイマー病の危険因子となるのでしょう。
 アルツハイマー病は脳に老廃物が蓄積して脳機能が障害されていく病気です。
アルツハイマー病と糖尿病の関係は、ずばり、インスリンがその接点です。脳内に蓄積する老廃物を分解する酵素は、他方でインスリンを分解する働きを持っています。そのため、高インスリン血症の方では、インスリンを分解するためにその酵素が多く消費されてしまい、老廃物を除去するパワーが減弱してしまう。ですから、基礎に肥満があって、高インスリン血症で、やっとこさ血糖コントロールができているような場合や、食事療法・運動療法がおろそかで、本当は不要なインスリン分泌薬あるいは多めのインスリンで治療を受けている場合などでは、その高インスリン血症のために、重要な酵素が浪費されてしまって、老廃物の分解が進みにくい、ということになります。
アルツハイマー病の薬として有名なものが、日本で世界に先駆けて開発された「アリセプト」です。この薬は、アルツハイマー病の進行をある程度遅らせることを可能にした画期的なものでした。
 しかし、その効果はあくまで「進行のスピードを遅らせる」だけであって、この薬で、失われた脳機能を回復する、とまではいきません。その後もいくつか同様の薬が上梓されましたが、どれも似たようなものです。やはり、認知症になってからその治療を行うのでは遅い。認知症の予防をする、というのが最善です。
  では、糖尿病があっても認知症にならないためにはどうしたらよいか。
やはり、基本は食事療法・運動療法なのです。これらがおろそかで、インスリン分泌薬やインスリンに頼って血糖コントロールを行ったのでは、たとえ血糖がコントロールされても認知症は予防しにくい可能性があります。
 食事療法として一般によくいわれる「バランスよく食べる・総エネルギーを摂りすぎない・野菜などの食物線維をしっかり摂る。」といったことは高インスリン血症を防ぐうえで理にかなっています。また、最近では魚油のDHAがアルツハイマー病の脳機能を改善するという論文もよくみられます。そうしてみると、糖尿病の方に従来から勧められている、昔ながらの和食が脳機能保持のためにもよいようです。
 運動療法にしても、少ないインスリンで血糖値が良く下がるようになる。つまりインスリン抵抗性を改善してインスリンを節約できる。たとえアルツハイマー病を来しやすい遺伝子を持っていたとしても、しっかりと運動する人は脳への沈着物はその遺伝子を持っていない方と同等だったという論文も発表されました。
運動すれば、体の老廃物を汗と一緒に流し去るだけでなく、脳の老廃物も除去することができる、ということになります。
 認知機能の低下を外来で簡単にスクリーニングする方法を、先日東京医大の羽生教授が講演でおっしゃっておられました。
認知症が出てきていないか心配だ、と思っておられる方、その簡易スクリーニング法を行うことも可能ですので、受診時におっしゃってください。

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