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HbA1cの国際標準化について考える (2010.6.15)

サッカーワールドカップ南アフリカ大会が6月11日に開幕しました。昨夜、日本は1対0でカメルーンを下して初戦をものにしています。この試合では松井や本田といった海外で活躍している選手―いわゆる海外組―が勝ち点3の原動力になりました。一次リーグでは今からさらにデンマーク、オランダといった強豪チームとあたりますが、やはり今後も彼らのように直接世界に接してきた、いわば「国際標準化」された選手たちが活躍することになるのでしょう。
  さて、「国際標準化」といえば、今これで揺れているのがHbA1cです。HbA1cは、皆さんご存知の1〜2ヶ月の間の平均のコントロールがわかる大事な検査、「糖尿病治療で最も気になる指標」です。診察のたびに一喜一憂の元となりやすい、そのHbA1cに国際標準化の波がやってこようとしています。どうやら、日本で測定している方法は諸外国の方法より0.4%程度低めに出ているらしい、それで近々この値が引き上げになるらしいのです。詳しい解説は省きますが、(詳しく知りたい方は糖尿病学会のホームページに6月7日付けでそのことに関する声明文が出ています)概ね今までより0.4%高くなります。例えば6.0%だったものは6.4%に、6.6%のものは7.0%に、といった具合に。そうしてやっと諸外国と同様のレベルのHbA1cで比較できることになるらしいのです。このことで医療現場ではかなり混乱をきたすことが予想されます。でも、本当に諸外国のHbA1cと現時点で0.4%異なっているのでしょうか?
  日本のHbA1cが0.4%引き上げられるということは、逆にいうと従来の諸外国の論文のHbA1cは0.4%低く置き換えて読み解く必要があるということです。そうすると臨床の感覚からかけ離れた成績となってしまうものがあるように思います。たとえば、およそ10,000人の2型糖尿病患者さんを対象とした有名なAdvance Studyという研究。この中で厳格コントロール群は5年の間HbA1cは6.5%に抑えられ、しかも体重増加がありませんでした。新薬であるインクレチン関連薬は使用されていません。アクトスなどのチアゾリジン系薬剤の併用もたかだか10%台でしかありませんでした。これが、「国際標準化」で換算すると、5年間体重増加なくHbA1cが6.1%でキープされた、ということになります。従来からある治療法のみで本当にこれだけのコントロールが可能でしたら、別に新薬などなくていいくらいです。糖尿病治療の大きい問題点のひとつは、血糖コントロールを厳格に行おうとすると体重増加が起ってしまうという点ですから、そこは既に克服されているっていうことになります。
  今年5月に岡山で行われた日本糖尿病学会では27日(木)午後に「日本人糖尿病の新診断基準をめぐって」というシンポジウムがありました。その中で和歌山県立医大の三家登喜夫先生が「本邦におけるHbA1c測定法をめぐる諸問題」という発表を行われました。本邦の臨床現場においても、今なお測定法による差がHbA1cには存在しているようです(免疫法ではHPLC法に比べて低く出やすい)。国内での標準化がまだ行われていないという段階なのに一気にHbA1cの国際標準化に持っていこうという方向性が本当に正しいのかどうかについて僕自身はまだ疑念を抱いています。その疑念の根拠となるのは臨床医としての感覚でしかないのですが。

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