糖尿病関連情報

DPP-W阻害薬について (2009.9.15)

新しい糖尿病治療薬―GLP-1について―という文章をこのかたくり新聞に載せたのが2006年3月でした。やっとこの冬、そのGLP-1に関連した薬である「DPP-W阻害薬」が市場に上梓されます。そこで今回はこのDPP-W阻害薬について書いてみましょう。
 
 もともと経口的にブドウ糖を投与した場合には、同じだけのブドウ糖を注射で投与した場合に比べてインスリン分泌量が多目であることがわかっていました。それは消化管の中にあるホルモンがインスリン分泌を促すためと考えられ、実際に@GIP、AGLP-1といった消化管ホルモンにインスリンを分泌させる働きがあることが突き止められたのです。前者は小腸の上部から、後者は小腸の下部から分泌されます。これらの消化管ホルモンのすばらしい点は、血糖値が高いときしかインスリンを分泌させない、血糖値が低いときには働かない、という点です。そこでこれらの消化管ホルモンが糖尿病の治療薬として使えないか、と着目されたわけです。しかし、これらを薬剤として用いようとすると体内ですぐ分解されてしまう、という難点がありました。そのため、これらのホルモンを分解するDPP-Wという酵素を阻害することができれば血糖の高いときにだけ都合よくインスリンを出させることができるのではないか、ということになったわけです。

 このDPP-W阻害薬の特徴を列挙します。
   ・ 新しいタイプの「インスリンを出させる薬」である。
   ・ 血糖の高いときだけ効く、つまり、低血糖は起こりにくい。
   ・ 従来のどの薬と併用しても効果が期待できる。
   ・ いままで減少する一方だった膵臓のβ細胞を増加させる可能性がある。(動物実
     験では既に確かめられているようです。)
   ・ 体重増加をきたしにくい。―ひょっとすると、α-GI剤(グルコバイ、ベイスン、セイブ
     ルといった薬剤)と組み合わせて内服すると、体重減少という副次的な効果も得ら
     れるかもしれない―。

  このタイプの薬は欧米では一足先に用いられていて、HbA1cを概ね0.7%程度改善しています。でも、もともとインスリン分泌の少なめな日本人では、より効果的な可能性があります。現時点でこの薬剤に重篤な副作用は無さそうですが、DPP-Wという酵素は消化管の中にのみ存在するわけではないので、他の臓器に存在するこの酵素が長期的に阻害された場合にどういった副作用が起こってくるかまだ不明な点もあります。細心の注意を払いながら使用していくことが肝要です。
(注意:こういった新薬は発売開始後一年の間は2週間ずつしか処方できません。)
 
 次回は、これも近いうちに本邦で使用することが可能となるもうひとつのGLP-1関連薬である「GLP-1アナログ」という注射薬についてお書きしようと思います。

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