糖尿病関連情報

癌と糖尿病 (2008.12.15)

ショッキングな疫学的データですが目をそむけておくわけにはいきません。今回のお話しは次の事実から始めようと思います。どうやら糖尿病患者さんでは、そうでない方に比べて癌に罹患するリスクが高いということが明らかになってきたようなのです。厚生労働省が行った多目的コホート研究によると、糖尿病の方は男性で1.27倍、女性で1.21倍癌にかかりやすいそうです(Inoue M, et al. Arch intern Med 166:1871-1877, 2006)。
 もともと当院のモットーは皆さんに「元気で長生き」してほしい、いわゆる「ピンピン・コロリ」ですから、その「元気で長生き」を阻害する要因となりやすい「癌」については、ちょっとした機会にも啓蒙・啓発を行ってきたつもりです。診察室前の壁にも「癌で死なないために」という張り紙がシリーズで何枚も張られています。しかし今までのそういった癌についての情報提供は「癌予防のために禁煙しよう」とか、あるいは「癌の早期発見のために検診を受けよう」とか糖尿病の方にとっても一般の方にとってと同じように癌は脅威ですよ、というお話しでした。今回の癌についての話題は糖尿病の方ほど癌になりやすい、というものです。
 糖尿病の方で癌が多い、と聞くとまず思い当たるのが肝臓癌や膵臓癌。これは肝臓が糖を取り込む臓器だし膵臓はインスリンを分泌する臓器だからそういった部位の癌ができると一方で糖尿病も起こってきやすいだろうと推測されます。しかし、胃癌、大腸癌、卵巣癌など糖代謝と直接関係のなさそうな部位でも罹患リスクは高くなっているといいます。なんで糖尿病の方が癌になりやすいかはまだ明らかではありませんが、どうもインスリン抵抗性による高インスリン血症が関与しているようです。インスリンは血糖を下げるホルモンというだけでなく細胞の増殖にも関与します。高インスリン血症となればそれだけ細胞増殖を来たしやすい、すなわち発癌しやすい可能性が高まるというわけです。ほかに、恐らく癌を抑制する体内の機構にも影響を及ぼしている可能性も考えられます。癌細胞を認識し破壊するためには何らかの形で蛋白質が関与するでしょうが、そうした蛋白に「糖化」が起こるとその蛋白の機能は損なわれてしまいます。また糖尿病の発症には食生活の欧米化が大きく関わっていますが、食生活の欧米化は欧米型の癌も連れてきやすく、糖尿病の方でそういった癌は多くなるだろうということが容易に想像されます。欧米型の癌としては大腸癌、乳癌、前立腺癌などが挙げられます。
  詳しいことは糖尿病協会の患者さん向け冊子「さかえ」2008年10月号に載っています。この「さかえ」の記事は愛知県がんセンター研究所所長である田島和雄先生が書いておられ、患者さんに向けて非常に重要な情報を発信しておられます。この文章はクリニックでコピーを作成し、是非多くの皆さんに目を通していただきたいと思っています。
  糖尿病の合併症として血管の病気については平生から皆さんはよく勉強しておられるでしょうけれどこの「癌」についてはあまり自分のこととして考えておられないのが実情ではないでしょうか。糖尿病の方は癌にも十分注意を払っておく必要があるのだ、ということをきちんと認識しておいていただきたいと思います。

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