糖尿病関連情報

膵・腎同時移植について (2008.9.15)

「かたくり」の原稿をそろそろ書かなくてはいけないな、何を題材にしようかと考えていた頃のこと。今月(平成20年9月)1日付けの中国新聞で中四国初の膵・腎同時移植が行われたことを知りました。今回はその膵・腎同時移植について少し書いてみましょう。
 2年前にこの「かたくり」の記事で膵島移植について触れました。その際『膵臓を移植するのは、そのまま全部体内に埋め込む手術ですから非常に大掛かりな手術になります。そのため一般的には膵移植は現在では単独には行われません。糖尿病の方にこうした大掛かりな手術が行われるのは、糖尿病腎症で腎不全を合併した方に腎移植と合わせて膵腎同時移植という形となります。』という風に書きました。今回の記事によると、ドナー(臓器提供者)は40代男性、原因は不明ですが東京都内の病院で脳死判定された方。レシピエント(移植を受けた方)は広島県内の40代女性だそうです。手術に要した時間は10時間以上。午後8時過ぎに始まった手術が終了したのは何と翌朝6時過ぎ。やはり長時間を要した大手術だったようです。こうした手術は日本ではあまり行われていないのですが、実は大掛かりだから行われることが少ないというわけではありません。膵・腎同時移植のドナーとなられる方は脳死となった方です。日本で脳死臓器移植があまり数多くは行われていないということがその最大の理由です。膵移植は現在までトータルでも日本全体で数十例という状態です(膵・腎同時移植は平成20年9月1日現在で38例−日本臓器移植ネットワークホームページより)。その数少ない膵・腎同時移植のひとつが、中四国で初めてこの度広島大学で行われた、ということです。
 
 執刀医である消化器外科教授の話が載っています。「女性は3000日以上も移植を待ち望んでいた。術後は血糖値も安定し、今のところインスリン投与の必要はなくなっている」とのこと。この手術でインスリン治療が必要なくなったばかりか、腎不全で透析をされていた方でしたら透析を必要としない状態になられたことでしょう。もちろん術後は免疫抑制剤を内服する必要がありますし、そのための易感染性により行動に制約があったりもします。しかし、膵臓・腎臓が生着すれば低血糖や高血糖に脅かされずにすむし、そうしたQOL(生活の質)ばかりでなく生命予後をも改善してくれる画期的な手術であるのは間違いありません。問題は脳死臓器移植がまだまだ多くは行われていないということ。日本人の死生観として桜の花のように自然のままに咲いて自然のままに散っていく。そうした考えがドナーとなることでの「自然でない形の死」を遠ざけているのでしょうか。
 
 でもこの度のひとつの「死」によりその方の心臓は国立循環器病センター(40代女性)へ 、両肺は岡山大学病院(10代女性)へ、肝臓は大阪大学医学部附属病院(50代男性)へ、 片方の腎臓は東京女子医科大学病院(30代男性) へ、そしてもう片方の腎臓と膵臓が同時移植というかたちで広島大学病院(40代女性)に提供されるに至りました。 もう必要でなくなった臓器がそれらを必要としている方々の中でもう少しの間生き続けることは、散りゆく桜に早い遅いがあるように少しの時間差があったって決して不自然ではないように思います。自分が死んだ後のことを考えるのはいやなことかもしれませんが、脳死後の臓器提供意思を明らかにするという意識が少しずつ広がっていけば、確実に膵・腎同時移植の恩恵を受けられる方が増えていくのだと思います。

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