根拠に基づいた医療(EBM)とは? (2007.6.15)
皆さんはEBMという言葉をご存知ですか?医療の世界ではEBMという言葉が大流行です。英語でEvidence Based Medicine、日本語に訳すと「根拠に基づいた医療」とでもいうのでしょう。頭文字をとってEBMといいます。糖尿病の治療においても御多分に洩れずこのEBMが診療の指針として示されています。最初にこうしたEBMを糖尿病学会が提唱したのが2004年のことです。その年、学会の編集により「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」という本が出版されました。その中から糖尿病の内服薬についてのEBMをみてみましょう。
1、2〜4ヶ月食事・運動療法で頑張ってみてコントロール困難なら飲み薬を使いなさい
。当たり前と思われるかもしれませんが、以前は「もしかすると、飲み薬を飲んでも結
局生命予後は良くなってないんじゃないの?」といった疑念があったのですが、放っ
ておくより治療したほうが良いっていうことには根拠が示されたのです。
2、1型糖尿病や妊娠時、あるいは重症感染、手術の場合は飲み薬でなくインスリンに
しましょう。この項目は根拠に基づくものでなくコンセンサス(合意事項)と捉えられ
ています。
3、合併症(細小血管症)予防にはできるだけ血糖を正常に近づけよう。ただしSU剤で
は低血糖に気をつけなさい。これも至極当たり前のことを謳っていますね。
4、飲み薬は、コントロールができるのならどれを用いてもOK。ただし、肥満した人では
「ビグアナイド」がいいっていう証拠がでていますよ。
2004年の時点では、推奨されている項目はたったこれだけでした。どうです?これでは、診療の指針としてあまり役に立ちそうにないと思われませんか?
つい2週間前の2007年6月1日、この「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」改訂版が出版されました。この3年間の科学の進歩で改定された診療内容はいかに?と新しい項目を早速見てみました。
上記の項目に加えて「大血管症」すなわち動脈硬化予防の方向性が示されました。
◆ 空腹時血糖やHbA1cばかりでなく食後血糖も改善しましょう。
◆ インスリンを節約して血糖を下げる薬であるα‐グルコシダーゼ阻害薬、チア
ゾリジン系薬剤、ビグアナイド系の薬に大血管症予防の一定の根拠が得られ
てきました。
結局、大きく変わったのはここです。膵臓にむちを当ててインスリンを出させる薬剤(SU剤)では、動脈硬化の抑制についてはまだ疑問符がつくのです。膵臓の負担を軽減して(無理にインスリンを分泌させないで)コントロールを行う薬のほうが結果的に体にいいよ、という結論が出つつあるわけです。こうした「根拠」はある程度予想したものでしたが裏づけができて初めて正しい治療を行っている、という確信が持てるのです。ただ、残念なことにこれらの根拠はほとんどが欧米の論文によるものでした。日本発の根拠は2〜3を数えるのみで、本邦ではやっといくつかの重要な大規模臨床試験がスタートした、という段階です。これから5−6年の間には日本人のデータをもとにした世界的に有用な「根拠」が多く示されることを期待しています。